
「会話していて、なんかこの人と話しているとモヤモヤする、イラッとくる……ということはありませんか?そういう人とは、脳の神経回路の使い方が違うと思ったほうがいい」
と話すのは、人工知能研究者で脳科学コメンテーターの黒川伊保子さん。
とっさに使う2種類の感性の回路
「コミュニケーションを取るときの回路の違いです。脳の縦方向の信号を優先的に使うタテ型と、横方向の信号を優先的に使うヨコ型の2種類あります。
タテ型には男性が多いですが、女性でもバリバリ仕事をする人やリーダー気質の人はこちらのタイプ。女性はヨコ型を使うことが多いのですが、時と場合と立場によって切り替わります。親子でいうと、子ども、職場でいうと部下です」(黒川さん、以下同)
タテ型の思考の特徴は「遠くの目標を見据え、今、何をしなければいけないかをとっさに判断する」。
つまりゴール(成果、結論)にこだわるため、会話の主な目的は問題解決にある。そのため、ヨコ型の人に対してのダメ出しや、会話途中での「で、結論は?」といった聞き出しが増える傾向にある。
対してヨコ型は「どうしてそうなったのか、を丹念に思い起こし、解決を導き出そうとする」。つまり重視するのは結果よりもプロセス。会話は相手との共感、理解を深めるツールなのだ。
「コミュニケーション特性をこのようにまとめると、タテ型のほうが冷たい、理性的と思われるかもしれませんが、人の話をさっさとまとめたりダメ出しをする根底には、相手の窮状をすぐに救いたい、そのために自分は何をしたらいいのかという思いやりがある。
そこを理解しないと、夫婦関係や親子関係がギスギスしたものになります。タテ型の人がヨコ型の人に“話が長い、かったるい”、“結局、何を言いたいのかわからない”といった不満を持ちやすいのも、こうした思考回路の違いを知らないから。心のすれ違いではないことを理解できれば、対話時のストレスが軽減できるでしょう」

今も残る原始の脳の使い方
自分は問題解決タイプのタテ型か、共感タイプのヨコ型か。そして、相手は? まずはそこを見極めることでコミュニケーションの取り方、受け止め方が変わってくるのだ。
かつて人類は男性が遠くまで狩りに出かけ、家族に食料を運び養った。危険を察知したときにとっさにどう動くべきか、命を守るための瞬発的なトレーニングを古代から積んできたといえる。
一方の女性は、コミュニティーの中で安全を重視しながら子どもを育み、周囲と共感しあい、知識の交換を行ってきた。平時の危機回避能力を“コミュ力”で磨いていったのだ。
こうした名残は現在も男女の脳の神経回路の中に生き続けている、と黒川さんは分析する。
対話のコツは、神経回路のタイプを理解すること、はわかったが、具体的にはどうすればいい?
「とてもシンプルです。相手の話は共感で受ける、自分の話は結論から始める。どんな人もこの2つを心がけるだけでいいんです。相手が提案や主張をしてきたら『いいね』『わかる』でまずは受け止めましょう。
もし否定する場合は、『いいね。その考え。でも実現の可能性が低いかもね』と共感を示す言葉のあとに、ネガティブな意見、相談を付け加えるようにすると対話がなめらかに進みます」