意欲が喪失して希望を言わなくなる

 身体が衰えるにつれて、いろいろなことに消極的になっていくお年寄りも少なくない。このまま一気に老いてしまったら……と心配してしまうことも。

 しかし稲葉さんは、必ずしも感情や欲求も生きている限り消えるものではないので、そうしたものをどううまく引き出せるかが、介護に必要という。

利用者をおんぶする稲葉さん。日課はお年寄りと“楽しいこと探し”をすることだと話す
利用者をおんぶする稲葉さん。日課はお年寄りと“楽しいこと探し”をすることだと話す
【写真】すり減らない介護!稲葉さんが運営する「くろまめさん」の様子

「加代子さん(79歳)もそのひとりで、年齢とともに消極的になり、『もういいんです』と何事にも後ろ向きな態度を見せていました。施設でもお風呂だけ入ってすぐ帰ろうとし、他の利用者とも交流せず、食事もほとんどとりませんでした。

 けれど僕は、嫌がられても毎回声をかけ続けました。すると少しずつ心を開き、『京丹後市の出身で、ばらずしがおいしい』と話してくれるように。何度も『もういいんです』と言う一方で、ばらずしの話は繰り返す加代子さんの様子から、“誘われるかたちなら本心を出せるのかも”と思い、みんなで京丹後へドライブすることに。

 現地でばらずしをうれしそうに食べた加代子さんは、『丹後はね、ばらずしが名物なんですよ』と、他の利用者に楽しそうに話しかけていました。

 老いる中で次第に積極性を失っていく人がいる。だからといって『したい』『食べたい』という気持ちまでなくなるわけではないし、本人は意識していなくとも、相手から誘ってくるのを待っているのではないでしょうか

「どこかに行かない?」と誘って、それで断られても、「あそこの公園の桜の木は立派なのよね~」とか、「どこそこで食べたとんかつ、おいしかったなあ」とか、言葉の端々に“気づいてサイン”は潜んでいるはずだと稲葉さん。

自分からあれこれ言うのは悪いなあ……と遠慮して『もういいんです』と口にしている場合がある。はっきり言ってくれたらいいのにと思うのは当然かもしれませんが(苦笑)、どうか声をかけてあげてください