生活が変わっても許せる寛容さを
介護生活は、それまでの生活リズムが一変してしまうことがある。
「できないことを受け入れるってすごく難しいことですが、介護の上ではすごく大切です。例えば認知症の症状のひとつである昼夜逆転は、多くのご家族を悩ませる問題です。夜中に起きて活動し、昼間に眠ってしまうという生活リズムの乱れに対して、医療機関を受診すると睡眠導入剤が処方されるケースがほとんどです。
夜間に効果を発揮することを期待して処方されますが、実際には昼間に効いてしまうことも。その結果、昼間に深く眠り、夜間に覚醒するという悪循環に陥ってしまうこともあるんです」
実際に施設の利用者にも、昼夜逆転が進行してしまったことがあったそう。
「かず子さん(81歳)は軽い物忘れはあるものの、週3回のヘルパー利用と週2回の通所で、ひとり暮らしをうまく続けていました。しかし、風邪をこじらせて肺炎になり、数日間入院。その後、東京に住んでいた娘さんが心配して家族でUターン移住し、かず子さんと同居することになりました。ところが、もともと昼夜逆転ぎみだったかず子さんは、娘さん一家の生活リズムに合わせるのが難しく、かえってストレスを感じるようになり、眠れない夜が増加。睡眠薬が処方されることになりました」
同居のストレスと睡眠薬の副作用からか、かず子さんの認知症は急速に進み、その後施設に入所したそう。
「年をとってからの生活は自分のペースができあがっているので、できるだけ相手の習慣を変えようとしないでください。お年寄りの生活リズムを強引に変えようとするのは、介護者のエゴにほかなりません。
例えばこのケースだと、親子といえども長年離れていた者同士がいきなり同居するのは、お年寄りにとっては想像以上のストレス。それによって昼夜逆転がひどくなったとしても無理せずにできる範囲で生活リズムを整えていくことが重要でした」
あせらずに本人ファーストで介護。介護する側の寛容さが、ひいては自分たちの介護をラクにする。