5編の中で最もよく見聞きするニュースを題材にしているのが、高齢者の交通事故のてんまつを描いた『まだ見ぬ海と青い山』だ。
救いはない話
「つい最近も、90代の方が高速道路を逆走したニュース記事を読みました。記事の中で息子さんが『危ないと思いつつも、車が必須の地域に住んでいるので注意することができず後悔している』といったコメントをなさっていたんです。作品の中でも触れていますが、免許を返納してタクシーを使う生活に変えるのは経済的に厳しいものがありますし、難しい問題だと思います」
─男子中学生がはねられ死亡 運転の七十五歳の女性を逮捕─の見出しにあるように、本編の登場人物は75歳の女性と男子中学生。女性は親切心から男子中学生と親しくなり、やがて思わぬ事態に発展する。
「親切にすることがトラブルにつながることってあるんですよね。子育てをしているせいか、最近、SNSで放置子に関する書き込みが流れてくるんです。親御さんに十分にお世話をしてもらえない子を気の毒に思って家に上げたら、毎日家に来たり、勝手にお菓子を食べたりするようになったりと困ったことになっているみたいで……。自分が当事者だったらどうするだろうかと、答えが出ないことを延々と考えることがあります」
最終話の『四角い窓と室外機』では、高齢夫婦が熱中症で死亡したニュースが取り上げられている。5つの物語の中でも、辻堂さんが特に思い入れがある作品だそうだ。
「ほかの4編と同じく、救いはないお話だと思います。ただ、主人公は長年抱えていた疑問が解決して心が落ち着き、納得のいく人生の選択をすることができました。ですから、5編の中では、いちばん救いを持たせた終わり方になったような気がしているんです」
死亡した高齢夫婦は、亡くなった息子の妻とともに暮らしていた。
「この作品は、連城三紀彦先生の直木賞受賞作の短編集『恋文』に収録されている『紅き唇』からヒントを得ました。『紅き唇』は、妻を亡くした主人公の男性が義理の母と一緒に暮らすお話です。私も微妙な関係性の家族の様子を描いてみたいと思い、この作品で挑戦してみました」











