単行本化の作業中、辻堂さんは時代の変化に直面した瞬間があったという。
違うタイプの作品も書きたいと思い執筆
「3編目の『ジャングルジムとチューリップ』は2023年の作品で、妻に協力的な夫が出産費用を半分出すというくだりを書いていたんです。でも、最近はSNSなどで“出産費用は男が全額出すべき”という議論が巻き起こっていますし、全額負担しないと、今ではできる夫にはなり得ないということに気づきました。この2年の間でこうした価値観の変化があることに驚き、単行本化にあたって修正しました」
『今日未明』はデビュー10周年の記念作品でもある。
「10年間小説を書き続ける中で、読者の方に“辻堂の作品は大団円で終わるに違いない”と思われているような感覚があったんです。ミステリー作家としては違うタイプの作品も書きたいと思い、『今日未明』を執筆しました。事件の裏にある人間の奥深さや人生のままならなさなどをつぶさに書いたつもりなので、そうした部分にも思いを巡らせながら読んでいただけたらうれしいです」
最近の辻堂さん
「最近、パン屋さんでパンの耳がぎゅうぎゅうに袋に詰まって30円で売られているのを見て即買いしたんです。小さい部分は離乳食に使い、大きな部分は3歳と5歳の子と一緒に食べました。パン屋さんのパンの耳はおいしくて、子どもたちに『ママ、これ高いんでしょ?』と聞かれたくらい(笑)。30円のパンの耳、ありがたかったです」
取材・文/熊谷あづさ
辻堂ゆめ(つじどう・ゆめ)/1992年、神奈川県生まれ。2015年、第13回「このミステリーがすごい!」大賞・優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞受賞および第75回日本推理作家協会賞候補、『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補。2022年『卒業タイムリミット』がNHK総合で連続ドラマ化。著書に『山ぎは少し明かりて』『ダブルマザー』などがある。












