緩和ケア医をしてみると、ニーズは予想以上だった。

ちょっとでも生存率を上げて、死亡率を下げて、延命して、というのが医療の原点です。ですから病院に行く限り、患者さんはいろいろな我慢を強いられて、死なないようにさせられる。でも僕は患者さんの好きなようにさせよう、家に帰りたいなら帰らせてあげよう、家族にありがとうと言って亡くならせてあげよう。本人が幸せに死ぬまで生きられればいいじゃないかという方針

やりたいことは早くやったほうがいい

 多くの患者さんが診療所を訪れるのは、そのような最期を迎えたいと思っている人が多いということだろう。

患者さんが亡くなったとき、『ああ、よかった、本人も幸せだった』と、家族に思ってもらえるのが目標。今は9割方、『家に帰してあげられてよかった。最期まで看てあげられてよかった』と言ってもらっています。だから僕は、楽しんで仕事をしていられるんです

 萬田先生は、2025年8月から12月までの4か月間、診療所を休診し、念願だった世界一周の船旅を実現した。

「あるとき、全部の夢を書き出したんです。ほとんどは叶っていたけど、『オーロラを見る』だけ叶っていなかった。それに気づいて3年前から準備を始め、昨年の8月にようやく出かけることができました。刻々と形を変えるオーロラは素晴らしかった。

 でも本来、薄い緑色をしているオーロラが、高齢者の方には白色に見える。70歳以上になると脳や目が老化して、オーロラのような薄い緑が識別できなくなるんです。それを知ったときに、年を取るってこういうことか、やりたいことは早くやったほうがいいと、改めて気づきました

 長く生きれば生きるほど、できないことが増えるのに、みんな長生きをしたいと思っている。そして、多くの人が平均寿命より長く元気に生きられるのを当然と思っているのではないか、と気づいたのも船の上だった。

「平均寿命というのは、あくまで“平均”。つまり、半分の人はそこまで達することなく死ぬということ。でもみんな、自分は平均以上は生きられると疑問もなく思っている。だから、がんと診断されるとショックを受けるんです。それは高望みなだけなのかもしれません。

 自分は違うと思うのはいいけれど、実際にそうではないと知ったとき、こんなはずじゃないと思ってしまう。この間までこんなに元気だったのにって言うけれど、それが現実。平均より上だろうが下だろうが、どんな人もいつか必ず死ぬんです。死は必ず来るものと、覚悟しておくことが必要です