そうはいっても、死に向き合うには、なかなか勇気がいる。
“棺桶まで歩こう”というメッセージの意味
「怖いからって先送りにしていると、もっと怖くなるだけ。だから自分が死ぬところから逆算して行動すると、いいと思う。『延命治療はしないで』と子どもに伝えている人も、口で言うだけでは全然ダメ。だって、子どもたちは親に生きてほしいんだから。子どもにとっては延命治療じゃなくて、全部必要な治療になる。だから、きちんと話し合って、何かに書き残しておくべき」
自分が希望する最期を話し合っておかなかったために、死ぬ間際に後悔が残ったまま亡くなる人も多いという。
「わがまま言っちゃダメ、家に帰っちゃダメ、帰ってきても面倒が見れない、それで亡くなったらどうするんだって。日本では、そうやって9割方の人が病院で亡くなっていくんです。患者さんにとって、それはつらいに決まっている。
好きなようにさせてもらえないんだから。でも、『ありがとう、治療したくないならいいよ、家に帰りたいならいいよ、お酒が飲みたいなら飲んでもいいよ』って言ってあげるのが本当に支えるということだと思うんです。そのほうが患者さんの精神状態もよくなります」
本人の人生なんだから、本人の好きなようにさせようよ、と言葉を強める。
「そっちのほうが本人も頑張れるし、根性も生まれる。根性があれば、食べられるし、歩くこともできる。亡くなるその日まで歩こうね。それが“棺桶まで歩こう”というメッセージ。棺桶に入れられるんじゃなくて、自分で歩いて入ろうって」
萬田先生自身、“死”を逆算して、生前葬を行ったという。
「僕が棺桶に入って、みんなが話しかけるというものを想定していましたが、実際は、来てくれた人たちに感謝を伝えて、すごく楽しい生前葬になった。幽霊の格好をしてしゃべったり、歌ったり。葬式はしなくていいけれど、生前葬は何回もやりたいなと思っています(笑)。死んでから、あいつはいいやつだったとか言われてもしょうがないですからね」
多くの人が、今は自分も親も元気だから大丈夫と思っている。そして元気じゃなくなって初めて“死”を考え始めるのだ。
「がんも急に発症するわけじゃなくて、数年かけて、がんになっていきます。2人に1人はがんになるわけですから、いつか自分もがんになったらどうするか、考えておかないとね。考えている人は、がんになっても想定内だから受け止めることができるわけです。そうでない人はつらいでしょう。でも実際に、もっとつらいのは歩けなくなったとき。
繰り返しますが、あなたが歩けているのは医療のおかげじゃなくて、自分の根性のおかげ。根性というのは、すなわち精神力。年を取るにつれて脳も衰え、精神力も弱ってくる。だから自分の好きなことをして精神力を維持して、治療よりも歩くことを頑張ったほうがいい。年を取っても、病気になっても心の状態と筋力は高められます。歩くスピードと余命は比例していて、できるところまで頑張る。死を遠ざけるのに、いちばん効果があるのは、やっぱり“歩く”こと」
誰でもいつかは死ぬ。棺桶に入るその日まで歩けるように、今のうちから好きなことをして“根性”を鍛えておこう。
取材・文/池田純子
萬田緑平先生 元外科医、在宅緩和ケア医。1964年、東京都生まれ。群馬大学医学部卒業後、群馬大学医学部附属病院第一外科に17年勤務。手術、抗がん剤治療、胃ろう造設などを行うなかで、医療のあり方に疑問を持つ。2008年から在宅緩和ケア医として、4歳から100歳まで2000人以上の看取りに関わる。現在、「緩和ケア 萬田診療所」の院長を務めながら、「最後まで目一杯生きる」と題した講演を日本全国で年間50回以上行っている。2025年は、自身のドキュメンタリー映画『ハッピー☆エンド』が公開された。


















