「人を絶対に裏切らないと思うんです」

 一方、夜のパン屋さんに参加するお店は、どんな思いで枝元さんの活動に加わったのだろうか。

 参加店のひとつ、『ラトリエコッコ』は、国産小麦を使い100%天然酵母にこだわるパン屋さんだ。オーナーの高田麻友美さんは枝元さん同様、以前からフードロスに問題意識があった。

「フードロスを問題視していましたが、自分たちの活動だけだと限界もあって、結局はロスが少し出てしまう状況でした」(高田さん、以下同)

 そんなとき、夜のパン屋さんに誘われ協力することにしたものの、どのようにして販売されるのか、一抹の不安があった。

食品ですから、やっぱり衛生は大事。パンを扱う販売員の方がどういう様子なのか気になったので、ためらうことなく枝元さんに事前に聞きました。どんなお洋服で販売するんですか?正直、においとかはあるんですか?と」

夜のパン屋さんの参加店、ラトリエコッコの高田さんは枝元さんに大きな信頼を寄せる 撮影/伊藤和幸
夜のパン屋さんの参加店、ラトリエコッコの高田さんは枝元さんに大きな信頼を寄せる 撮影/伊藤和幸
【写真】女性客にパンの説明をする枝元さん。『夜のパン屋さん』には、さまざまな人たちが買いに訪れる

 枝元さんは、高田さんの質問に誠実に答えた。

「“お洋服は支給します” “においは若干あるけれど、お手伝いしてくれる方々はそんなことないです”などと、率直にお話ししてくれました。あとは、やっぱりピックアップに来る販売員さんに実際にお会いして、安心したところもあります。生活困窮者の問題がちょっと近しい、自分事になりました」

 枝元さんの姿勢から、学ぶこともあったという。

「枝元さんは、生活困窮者の方たちと対等にお話をされるので、その関わり方を見て、偏見が消えました」

 夜のパン屋さんの参加にあたっては、「枝元さんだから大丈夫だろう」という安心感も影響したと話す。

人を絶対に裏切らないと思うんですよね。ずる賢いこともしないと思う。例えば、預かったパンは2日(たったものは)売っていませんと枝元さんが言うなら、絶対に売っていない。売ってしまった場合は正直に言ってくださると思うんですね。それは長く付き合ったからどうこうという話じゃなくて、枝元さんのお話しぶりから伝わってくるものがあるので。飾らないし裏もないし、絶対嘘はつかないだろうなって」

 パンは半額から55%ぐらいで夜のパン屋さんに売り、夜のパン屋さんではラトリエコッコのほぼ定価で販売している。その日、余りそうなパンを冷凍し、空き時間に夜のパン屋さん用に数種をまとめ、袋詰めしておく。

「うちが夜のパン屋さんに参加していることをご存じのお客様が、あえて田町へ買いに行ってくださったそうで。もちろん貢献の気持ちもあるのだと思いますが、いろんなパンがあって、選べて楽しいっておっしゃっていました。夜のパン屋さんで買っていただくと、そのお金はラトリエコッコだけではなく、生活困窮者の方にも届く。貢献できるので、うれしいです」

 夜のパン屋さんであえて買ってくれるお客さんは1人だけではなく、何人もいる。パンを通じた思いやりの循環が街角に生まれている。