順調に活躍する中、ひとつの節目があった。
20歳を迎えた1985年、明菜は日本レコード大賞を受賞する。『ミ・アモーレ』を熱唱する明菜の前に登場したのは、花束を手にした千恵子さんだった。明菜にとって、母親の夢を叶えた瞬間だった─。
なんで仲よくできないの!
「ここに来たのは3年ぶりですね」
母親の墓前で祈るように手を合わせ、顔をあげた実兄が話を続ける。
「最近は、明菜がいろいろな活動をしているようだと周囲から聞こえてきます。ラジオから明菜が新しく歌った『北ウイング』が流れてきたんです。従来とは違うバラードで、お酒を飲みながらゆっくりと聴きたくなる曲ですよね」
妹の活躍を喜ぶ反面、複雑な思いを抱え続けている。
「たまに会って、昔話をしたり、そういう家族の形に戻れたらいいのですが……」
そのうえで、こんな母親の願いがあったと打ち明ける。
「子どものころ、きょうだいゲンカをすると母親が“同じお腹から生まれてきたのに、どうしてケンカするの。なんで仲よくできないの!”って悲しそうな顔で話していました。だから本当はみんなで仲よくしたいのですが……。母親に申し訳なくて」
母の願いを叶えられる日は再び訪れるのか─。