近所の散歩に始まり、公園でのピクニックやイベントへの参加、ディズニーランドや新幹線を利用して京都までの旅行も経験した。
「鼻からの経管栄養は1回に3時間ほどかかっていましたが、胃ろうの手術をして、今は少しずつ半固形での栄養補給に切り替えています。首がすわってないので、座位を保ったり寝返りをしたりすることは難しいですし、気管切開をして人工呼吸器をつけているため、言葉だけでは意思の疎通が難しい状況。
ハンドサインやジェスチャーを組み合わせてコミュニケーションをとっています。よく、手鏡を使って周囲を観察したりもしています。慎重な一面もありますが、いたずらっ子のようなところもありますね」
夫婦で前を向いていく
訪問看護師やヘルパーの支援を受けながらではあるが、富士くんの成長とともに、少しずつ夫婦それぞれの時間も持てるようになってきた。
「出産前から夫婦でいろいろ話すほうでしたが、改めて気持ちを言葉で伝えるのは恥ずかしいこともありました。時間ができてからは、月に1回は家族会議を開いたり、妻に『調子はどう? 眠れている?』といった簡単なアンケートを取ったことも」
現在、新井さんは株式会社NEWSTAが運営する「ファミケア」のCOOを務めている。そして、ビジネスを通して、疾患や障害のある子どもを持つ家族の毎日を楽しくすることを目指し、事業づくりに取り組んでいる。
「医師は病気のことは詳しいですが、ケアのことや患者家族への支援については、必ずしも十分に把握しているとは限りません。全体像を理解している人って、実はほとんどいないんです。
探せばいろいろな制度やサービスがあるのに、その情報にたどり着けていなかったり、誰にも相談できずに孤独を感じている人も多い。そうした家族の困り事を解決するヒントや、毎日を少しでも『楽しい』と思ってもらえるような情報を届けられたらと思っています」
最後に正輝さんに、今後やってみたいことを聞いた。
「家族でいろいろなところに出かけたいですね。新幹線には乗ったので、次は飛行機に乗ってみたいです。それから、息子のためにも、自分が健康でいないといけないと思っています。
先天性ミオパチーの場合、合併症として肝臓の病気を発症することがあるので、将来的に、僕の肝臓を息子に移植する可能性も考えています。以前はお酒をよく飲むほうでしたが、今はその可能性を考えて、かなり控えるようになりました」
さまざまな制度を調べていくなかで、社会や政治への感度も高まったという正輝さん。「ファミケア」の活動を通じて、大学や企業との新たなつながりも生まれている。
未来に不安がないわけではない。それでも、海外での治験の成功例が示すように、希望は確かに存在する。夫婦と富士くんが歩んできた道のりは、今、同じように悩み、立ち止まる誰かにとっての希望にもなっている。
取材・文/小林賢恵











