震災をきっかけに15か国を巡って

 2011年3月11日を“人生を変えた日”と、まさこさんは表現する。東日本大震災が起こったあの日、まさこさんは南青山のウェブ制作会社で働いていた。公共交通機関が止まり、街が騒然とするなか、結婚を見据えて一緒に暮らしていた現在の夫となんとか合流し帰宅した。だが不穏なニュースは続き、心のざわつきは止まらない。後に夫婦となり、

“家族で安心して暮らせる場所を探したい。子どもが生まれたら東京を離れよう”

 2人でそう誓い合い、長男のタカラくんが生まれた約2年後に、この誓いを実行する。

 最初は国内での移住先を探したが、ピンとくるところが見つからず、「いっそ海外で探してみない?」と、思いきって夫に持ちかけたまさこさん。「ああ、いいよ」と拍子抜けするほど自然な返事が返ってきて、家族3人での海外移住先探しの旅が始まる。

 思いついても実際に行動に移すのはハードルが高いこと。ためらいはなかったのだろうか。

「不安や躊躇より、ワクワクのほうが強かったです。知らない世界や食べ物を知ることができるのがうれしくて」

 短いときは1週間、長いときは3か月。リモートワークをしながら世界各地に滞在したまさこさん一家。世界中の美味しいものを求めて、アメリカ、カナダ、ニュージーランド、イタリアなど、日本と行き来しながら2年間で15か国を訪れた。

 アメリカのポートランドではスパイスと出合い、オーガニック志向に心惹かれ。カナダのバンクーバーではフィッシュ&チップスやクラムチャウダー、キャロットケーキに心奪われ。そうやって出合った数々の料理を、自分流にアレンジして作ることが何より楽しかったという。

「そんな日々の中から、喫茶店をやる夢が少しずつ具体的になっていった気がします。こんな雰囲気にしたいとか、こんな料理を出してみたいとか」