福岡で喫茶店開業。見つけた安住の場所
タカラくんが3歳になったころ、海外巡りの生活は終わりを告げる。ニュージーランドへの移住を決めた矢先、義父が故郷・福岡の施設に入ることになり、“ここに腰を据えよう”と夫婦で決めたのだ。
夫は関東育ちで、両親の故郷という以外に福岡との接点は特になし。まさこさん自身も「接点はまったくなかったんです。お友達も1人もいなかった」と振り返る。
「でも、見知らぬ土地に住むことへの不安は、全然なかったです。新しいところに飛び込むことに躊躇がないタイプで、むしろ1か所に長くいられない」
そう言って微笑むまさこさんに、「それ、私も一緒かも(笑)」とみちこさん。ほっこりするやりとりに、温かな関係性が垣間見える。
福岡に移住したまさこさんは、喫茶店の物件探しを始める。1年後、ようやく巡り合ったのが現在の店舗。美容院の居抜きでレトロな雰囲気、そして窓の向こうに公園の緑が広がる様子に惹かれ、即決した。こうして2018年に夫婦で喫茶店「Sounds Food Sounds Good」をオープンする。店名の由来は、
「まず、フードという言葉は入れたくて。それと、海外を旅しているときに、よく“Sounds good(『いいね』『よさそう』など、同意や賛成を示すポジティブなフレーズ)”と言われたので、それも入れたくて、言葉遊びのような感じでつけました」
“カフェ”ではなく“喫茶店”にしたのは、豊橋にあった喫茶店への憧れと、レトロな物件の影響から。10数席のこぢんまりしたこの喫茶店で、親子3人が安心して健康に過ごせる生活がスタートした。
海外での美味しいもの探求に加え、喫茶店を始めるまでの2年間、全国各地のイベントやフェスにキッチンカーで出店していたまさこさん。数えきれないほどの試作を重ねてきた末に、“美味しいと感じるもの、安全だと信じられるものを出す”という信念は確信に変わったという。
開業して最初に出したのは、ワンコイン(500円)のおにぎり弁当。塩むすび2つ+日替わりのおかずが評判を呼んだ。そして、「鉄板ナポリタン」や「ドレッシングのためのサラダ」など、本にもレシピが掲載されている人気メニューが次々と加わっていく。
まさこさんの料理に魅せられた1人が、田中文さん。キッチンツール専門店「キッチンパラダイス」店主で、料理研究家の本の企画や編集、執筆など幅広く活動。まさこさんの本についても出版社探しや企画構成、口述筆記を担当した。初来店時に「すごく料理の好きな人が作っているな、こだわりがすごいなと感じた」と言う。
「鉄板ナポリタンをいただいたのですが、とにかく熱々で提供したいというサービス精神が伝わってきましたし、麺は驚くほどの太麺。ケチャップも手作りのような味わいで“これは今まで食べたナポリタンではないな”と感じ、思わず厨房を覗いてしまいました。また、調理道具へのこだわりはもちろんのこと、オーガニックの調味料や食材を使っている点にも、高い意識を感じましたね」(田中さん)
まさこさんの味に惹かれた常連客がお店を盛り上げ、店は地域の人々の集いの場となっていく。笑顔とぬくもりにあふれた、幸せの喫茶店。震災以来の悲願である“安心していられる場所”を、ようやく見つけたのだった。だが……。


















