一見すると何の問題もなさそうですが、夫は「豹変癖」を抱えていたのです。「結婚する前、主人がこんな人だなんて知らなかったんです! 主人は二重人格なんです!」と美樹さんは嘆きますが、夫の人格はどう変わるのでしょうか?

夫が台所から包丁を持ち出して

 まず最初に夫が豹変したのは一昨年の12月。幼稚園に行く時間が迫っているのに娘さんが朝食を食べ終わらない。そんな早朝の姿が何日も続いたところ、夫は「いい加減にしろ!」という感じでこうまくし立てたのです。「早くご飯食え! これじゃ、みんなと一緒に学校行けないよ! 幼稚園やめるか? ご飯食べないなら、帰ってこなくていい。どこかへ捨ててこようか?」と。

 さらに刃物の鋭利な部分が何かに擦れるときの不協和音……シューと嫌な音がかすかに聞こえたかと思えば、夫は台所の収納から包丁を取り出し、手に持ったまま、娘さんに突きつけたのです。今度は「早く食べろ! ちゃんとパパの言うことを聞けよ!」とまくし立てました。

 驚いた美樹さんは「美和を何歳だと思っているのよ! 大人と違うのよ。口に運ぶのに時間がかかるでしょ!?」とありったけの声で叱責すると夫は何も言い返さず夫は台所へ戻り、包丁を放り投げ、そのまま外に飛び出したのです。

 美樹さんは心臓が飛び出そうなほど胸がバクバクするのを隠し、何事もなかったかのように娘さんを幼稚園へ送り届けたそう。そして自宅に戻ると夫の姿が。両手の震えは止まり、赤かった顔は青くなり、枯れた声色も元どおり。夫は完全に正気を取り戻した様子。「すまない。俺が悪かった。許してくれ」と懇願するので美樹さんは夫のことを許し、今朝のことを水に流し、二度と同じことが起こらないと信じていたのですが……。

 そんな美樹さん夫婦にも襲ってきたのが新型コロナウイルスの蔓延。筆者は過去に北海道南西沖地震、阪神大震災、東日本大震災など未曽有の大災害を経験したことで「家族のありがたみ」を再認識し、心を入れ替え、まるで生まれ変わったかのように復縁した夫婦をたくさん見てきました。だからこそ、コロナ禍という異常事態下において美樹さん夫婦が絆を再構築できる可能性があるのではと筆者は淡く期待していたのですが、残念ながら、夫の豹変癖は治りませんでした。

 再度、同じトラブルが起こったのは東京オリンピックの開催中。今年8月、美樹さんは家族3人でサッカー日本代表の試合をテレビで観戦していたのですが、娘さんは興奮さめやらぬ様子でリビングにサッカーボールを持ってきて、「私もオリンピックに出たいなぁ」と言いながら、楽しそうに、そして無邪気に遊び始めたのです。

「うるさい! 静かにしろ!」

 突然、夫は感情的にそう言い放ったそうですが、夫がしでかした行動は「しつけの域」を完全に超えていました。夫は台所から包丁を持ち出し、サッカーボールを娘さんから取り上げ、そして包丁でボールを切り裂き始めたそう。

「プシュゥゥゥゥ」

 何箇所も大きな穴の開いたボールは、そんなふうに音を立てて、空気が一気に抜けていったのですが、不気味な音がリビングに響き渡ったのです。美樹さんは「何やっているの! 美和が怖がっているじゃないの!」と注意したのですが、夫は悪びれずに反発。「俺が悪いって!? ふざけるな、悪いのはあいつだろ!」と逆ギレ。

 あろうことか父親である夫が子どもの責任を転嫁しようとしたのです。夫の子どもじみた態度に美樹さんは激怒。「約束を守れないなら別れてよ!」と言うと、夫はまた逃避行。靴を履かずに家を飛び出し、行方をくらましたのです。しかし、これで2回目なので美樹さんも動じません。夫は1時間もしないうちに玄関を開け、汚れた靴下を脱ぎ、家に戻ってきたのですが、ようやく意思疎通ができるようになった夫に対して、こう投げかけたのです。

「キレないでほしいって言ったでしょ? 私の体調が悪くなるし、美和が動揺するし、近所にも迷惑だから」と。しかし、夫は涙ながらに「俺にはお前しかいないんだ。捨てられたら死ぬしかない。俺を殺さないでくれ……」と懇願。しかし今回は「はい、そうですか」と引き下がるわけにはいきません。

 美樹さんは「あなたは自覚が足りないのよ! 守る、守ると言いながら、本当は守るつもりがないんじゃないの?」と一蹴。いまだに夫が甘えているのは、一昨年は大きな問題に至らず、相変わらず衣食住をともにし、何事もなく結婚生活が続いているからです。必ず守るという強い意志はなく、「守れたら守る」という軽い気持ちだったのでしょう。