「榮子先生と話すと元気をもらえるんですよ!」かかりつけ薬局として利用する多くの常連客が口をそろえる。カウンターに座る比留間榮子さんの姿を見つけてうれしそうにする客、握手をしてパワーをもらって帰るという客などファンも多い。家族のこと、不調、孤独感……薬剤師として、人生の先輩として、どんな相談事にも耳を傾け、“言葉のくすり”で客の心をほぐす。榮子さんが孫とつくり上げた、「峠の茶屋」のような憩いの薬局を訪ねた。

“世界最高齢の現役薬剤師”

 98歳の今も、薬剤師として働く比留間榮子さん。薬剤師歴はなんと、77年の長きにわたる。“世界最高齢の現役薬剤師”として95歳のときにギネス記録にも認定された。

 榮子さんが働いているのは東京都板橋区のヒルマ薬局小豆沢店。都営三田線の志村坂上駅近くにある調剤がメインのこぢんまりとした店だ。榮子さんの孫で、薬剤師の比留間康二郎さん(42)が店長を務めている。

 奥のレジにいちばん近い席が榮子さんの指定席だ。カウンターをはさんだ向かいに座る高齢女性に、榮子さんは落ち着いた口調で話しかけた。

「自分で歩けるうちは、杖をついても何を使ってもいいから歩かないと。ずっと寝ていたらダメよ」

 この言葉には榮子さんの実感がこもっている。3年前、骨折して入院。長いリハビリを経て復帰したのだ。

「コロナで出歩かなくなったら、日一日と足がダメになっちゃって。歩くのがしんどいんです」

 女性がそう嘆くと、榮子さんは繰り返し励ます。

「私も同じよ。でも、ダメだダメだと思わずに、時間をかけてもいいから一歩一歩ね。ただ、転ばないように無理はしないで」

 女性は77歳。骨を強くするための薬を受け取りにきた。榮子さんと話すと元気をもらえるので、長年通っているという。

「榮子先生は100歳近いのに、お店に出てこられるでしょ。“あー、頑張っているんだ”と思うと、“自分も頑張らねばな”と(笑)。先生を目標にさせていただきます」

比留間榮子さん 撮影/伊藤和幸

 薬剤師の役目は、処方された薬がこれで本当にいいのか判断しながら、お客様の相談に乗っていくことだ。ただ、薬は日進月歩。しかも、1つの薬に3つの名前がある。先発薬、後発薬、成分名だ。医師が処方箋に書く名前はまちまちなので、すべて覚える必要がある。よく似た名前の薬もあるし、分量を間違えたら命に関わるので、気が抜けない。

 榮子さんはパソコンやスマホも普通に使いこなす。Zoomで会議に参加したり、LINEで薬局のスタッフと連絡を取り合ったり。IT機器の使い方は、孫の康二郎さんに一から教えてもらったのかと思いきや、みんなに聞きながら自分で覚えたというからビックリだ。

「康二郎に何か教えてもらって、また聞くと“この間も教えただろう”って言われちゃうから(笑)。あの人は口が達者だからケンカするときもあるけど(笑)、仲直りもすぐしますよ」

 お互いに何でも言い合える関係なのだろう。榮子さんが席から立ち上がり歩行器を使って店内を移動する際は、康二郎さんがすっと手を貸すなど、仲のよさがうかがえる。

 仕事に復帰後、榮子さんが担っているのは接客と服薬指導だ。まず症状を詳しく聞いて、薬の飲み方を伝える。生活を送るうえでの注意も細やかだ。お腹の痛みを訴える若い女性にはこう話していた。

「身体を冷やしちゃダメよ。冷たいお水は美味しいでしょうけど、お茶とか温かいものを口にして。ちょっとした気遣いが大事よ」

 そして、最後にこんなひと言を添える。

「何か気になることがあったら、いつでも相談に乗りますからね」

 いつも明るく前向きな榮子さんには何でも話したくなるのか。薬に関することはもちろん、全く関係のないプライベートな悩みを相談されることもあるという。

「娘さんがご主人と仲が悪いとかいろいろ。そんなこと、私だってどうしていいかわからないけど、誰かに言えば気がせいせいするじゃない。だから黙って聞いています。この人、また同じことをしゃべっているわと思うこともあるけど(笑)。

 でもね、どんな話でも聞いてあげるのが大事なの。高齢で夫婦のどちらかが欠けて1人になると、話し相手がいなくなるでしょう。言葉も忘れちゃいそうだという人は多いもの」

 薬局で湿布や塗り薬を処方されても、患部が背中や腰だと手が届かないと悩むひとり暮らしの人は多い。そんなときは、「ここで湿布を貼っていきますか」と声をかけ、手伝うこともあるそうだ。