婦人科などの医療機関でのさまざまな治療を

 ほかには過去の性交痛の記憶による恐怖と不安で、痛みをより強く感じるケースもあり、心因的要因も見逃せない。

私が開設している性交痛外来では痛みを感じる部位やタイミング、痛みが始まった時期、痛みの程度、これまでの治療やケアの履歴を聞き取ります。

 また必要に応じて外陰部の視診、感染症やがんの検査を行い、痛みの原因を突き止めていきます。腟の奥が萎縮している場合には、腟を拡張するための医療機器・腟ダイレーターをおすすめする場合もあります」

 特にエストロゲンの低下に伴う性器や尿路の障害や諸症状はGSM(閉経関連尿路性器症候群)と呼び、婦人科などの医療機関ではジェルでのセルフマッサージで腟をふっくらなめらかにするなどさまざまな対処法がある。

エストロゲンを補充することで改善も期待できる。更年期障害の治療として保険適用
エストロゲンを補充することで改善も期待できる。更年期障害の治療として保険適用
【写真】年齢とともに減るエストロゲンの分泌量

軽症なら乳酸桿(かん)菌入りのジェルで保湿し、マッサージをして腟環境を整えるセルフケアだけで大丈夫です。しかし毎日ケアをしても症状が進行し、中等症~重症化した場合は、エストロゲンの補充という方法があります

 補充には2タイプあり、全身に投与する方法と、デリケートゾーンの局所に投与する方法がある。

全身投与は医療機関でのみ行えるので、お近くの婦人科にご相談ください。更年期障害の治療として保険適用です。

 主に脳や血管の障害、具体的には全身の倦怠感がひどく、仕事に集中できない、朝起きられない、やる気が出ない、気持ちの乱高下が激しすぎるなどが全身投与の対象になります」

 局所の場合は低用量のエストロゲンでも効果が出やすい。

「全身投与と違って肝臓での代謝を介さず局所に直接補充するので、副作用が少ないのも特徴です。自分自身で気になる部分にマッサージしながら塗るだけなので、手軽なのもいいですね。他にデリケートゾーンに卵胞ホルモンの一種である、エストラジオールを投与する方法もあります」

 医療用エストラジオールと同成分の美容液は、インターネットでも気軽に入手できる。

ただし誰もがエストロゲンを補充できるわけではないんです。乳がんや卵巣がんの方は禁忌ですので、乳酸桿菌入りのジェルでマッサージを続けましょう。改善しない場合は、医療機関で腟にレーザー治療を施す方法もありますよ」

 加齢に伴う身体の変化をパートナーと共有し、ふたりで適切な解決策を見つけることが、心身の健康につながるはずだ。

富永喜代先生●医学博士。日本麻酔科学会指導医。2008年に愛媛県松山市に富永ペインクリニックを開業し、院長に就任。性交痛外来では1万人の悩みをオンライン診断する。YouTubeチャンネル「女医富永喜代の人には言えない痛み相談室」は登録者29.8万人を超え、テレビ出演も多数。
富永喜代先生●医学博士。日本麻酔科学会指導医。2008年に愛媛県松山市に富永ペインクリニックを開業し、院長に就任。性交痛外来では1万人の悩みをオンライン診断する。YouTubeチャンネル「女医富永喜代の人には言えない痛み相談室」は登録者29.8万人を超え、テレビ出演も多数。

教えてくれたのは……富永喜代先生●医学博士。日本麻酔科学会指導医。2008年に愛媛県松山市に富永ペインクリニックを開業し、院長に就任。性交痛外来では1万人の悩みをオンライン診断する。YouTubeチャンネル「女医 富永喜代の人には言えない痛み相談室」は登録者29.8万人を超え、テレビ出演も多数。『女医だけが知っているとなりのSEX白書』(永岡書店)

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取材・文/植田沙羅