父親へのカミングアウト、母親からの無視……
「冗談酒場」で初めて男性と恋人関係にもなった。相手は店長。夢中になるうち、学校の欠席が増え、教師に呼び出される。隠し続けるのは限界だった。はるなさんは、父親に近所のファミレスまで来てもらい、腹を括る。怒鳴られ、殴られることも覚悟した。
ニューハーフとして働いていること、男性と付き合っていること、「女性として生きたい」という思いを伝え終えたとき、父は勢いよくフォークをテーブルに突き立てた。
しかし、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「わかった。おまえが決めた人生や。男やったら貫き通して1番を取ってみろ。絶対に後悔するなよ。お母さんには黙っておくから」
破天荒で、時に母に手を上げたこともある父が、自分を受け入れ励ましてくれた。その喜びと、息子と父という関係が変わってしまう寂しさが胸に入り交じったという。
一方、母・初美さんは「うすうす感じ取っていたが、どう向き合えばいいかわからなかった」と本音をこぼす。
「聞くのも怖かったんです。中学のころ『寝られへん』と言い続けていたのに、私は『早く寝なさい』と叱るばかりで。いじめもつらかったはずなのに、私は仕事でいっぱいいっぱいで……自分のことしか考えてなかったと悔いてます」
父に許しを得た後、「冗談酒場」で、はるなさんは瞬く間に人気者へ。現在、ママを務める竹野町菜々香さん(58)はそのころを振り返る。
「当時はお店のアイドルで、聖子ちゃんの歌まねやお笑いもやってました。誰にでも笑顔で『ありがとうございます』と言えるかわいい子でしたよ」
上沼恵美子さんの人気バラエティー番組への出演を機に、人気は加速し、ショーは連日満席。母・初美さんはその噂を耳にしても、会話を避けるように無視を続けた。それでもはるなさんは、母の誕生日に贈り物を届けていたという。転機は、はるなさんからの一本の電話だった。
「テレビの取材があるから、家に帰っていい?」
団地の前に止まった大きな車から、ロングヘアにスカート姿のはるなさんが降り立つ。
「お化粧は今ほどうまくなかったですけど(笑)、その姿を見て思ったんです。この子は女の子として必死に生きようとしている。もう反対ばかりしてたらあかんって」(初美さん)
母が初めて“賢治”ではなく“愛”と呼んだ日のことを、はるなさんは今も忘れない。アイドルを目指して上京するも芽が出ず、めげそうだった28歳のころだ。母の家に泊まると、脱衣所にピンクのパジャマが用意されていた。
「うれしくてお風呂で泣きました。上がったら『愛、そろそろ寝ようか』って」
翌朝、母はこう送り出した。
「愛は自分の信じた道を歩みなさい。苦労はきっと報われるから」


















