「いきてるだけですばらしい」

 そしてある日、徠夢君がノートに書いた言葉が、美香さんの背中を押す。

「みんなに いきてるだけで すばらしいと つたえる」

「この言葉を見たとき、“この子はちゃんと伝えたい思いを持っているんだ”と強く感じました。それなら、私がその橋渡しをしようと。そう思って講演を始めました」

講演会を終え、参加者と記念撮影。多くの人に徠夢君のメッセージが響いた
講演会を終え、参加者と記念撮影。多くの人に徠夢君のメッセージが響いた
【写真】「いきてるだけですばらしい」母の背中を押した徠夢君の言葉

 会場の手配から集客まで一人での活動。徠夢君も参加し、その言葉は多くの人の心に届いている。

「障害は決して特別なことではありません。誰にでも起こりうることです。そのときにどう向き合うのか、どう支え合えるのかを考えるきっかけになればと思っています」

“奇跡”と呼ばれることもある歩み。しかし美香さんはこう言葉を選ぶ。

「奇跡というより、本当に小さな積み重ね。できることを一つずつ続けてきただけ。その連続が、今につながっているんだと」

「あの日」から10年─。

 失ったものの大きさは変わらない。それでもなお、確かに手にしたものがある。

「生きているだけで価値がある。そのことを、私はこの子から教えてもらいました。だからこそ今は、その思いを、少しでも多くの人に届けていきたいと思っています」


取材・文/小野寺悦子