強迫性神経障害を発症している時期に描いた作品(左)は、正常時の作品(右)と比べて暗い色が多い傾向にある
強迫性神経障害を発症している時期に描いた作品(左)は、正常時の作品(右)と比べて暗い色が多い傾向にある
【写真】憲満さんの緻密で繊細な作品

 そんな不安定な精神状態とは裏腹に、うれしい知らせはまだまだ続いた。

 2015年には、スイスにあるアール・ブリュット専門の美術館『Art Brut Museum』からサラ・ロンバルディ館長が来日し、寄贈を要請。5作品が展覧会『Architectures Collection』で展示された。このときは招待に応じ、満さんともどもスイスにまで足を延ばしている。さらにはシンガポールのパスライトスクール(自閉症児支援学校)からも、展示会の招待状が。

 ここでは大勢の聴衆の前で絵を描く様子を実演したばかりでなく、同じ自閉症のアール・ブリュット作家のアッシャー・ウングさん(14)と交流。お互いに絵を描き合うことで理解を深め合った。

絵は彼のコミュニケーションツール

 以前には想像もできなかったわが子の活躍に、満さんは目を細めるばかりだ。

「憲満のおかげで、東京はもちろん、スイスやシンガポールにまで行かせてもらって。障がいで苦労はしたけど、障がいがあればこそ、東京にもスイスにも行けたんやから」

自身の絵を寄贈したスイスの美術館を来訪
自身の絵を寄贈したスイスの美術館を来訪

 2016年には高校時代に取り組み始めた前出の超大作『3つのパノラマパーク』が完成。これをお披露目すべく、2018年には凱旋ともいうべき展示会が開催される。ふるさと滋賀県東近江市で開催された、『古久保憲満の世界』展がそれである。ちなみに、これらの様子は前述の映画『描きたい、が止まらない』に収録。近藤監督は、

「絵は彼のコミュニケーションツールのひとつ。日常で、彼は知らない誰かに話しかけられたらしゃべれない。ペンと紙が、そのかわりになっているんだと思います」

 馬場先生も異口同音に言う。

「彼の中では絵は言葉で、しゃべりたいことが絵に詰まっているんです。ずっとしゃべっていたいことがあって、それが10メートルの大作につながっていくんだと思います」

 これまでに20を超える賞を受賞している憲満さんだが、絵への情熱は一向に衰えない。

「賞よりも、もっと大きな街を描きたいという思いのほうが強い。多種多様な街。いろんな文化があったり、いろんな人種がいるような。たとえていえば、シンガポールとかインドネシアとか。先進国って好きじゃないんですよ。途上国のほうが好き。新しい建物があれば古い建物もある、あの格差が好き」

 作品に北朝鮮が登場するのも憲満さんの特徴。武器や戦艦などを純粋にカッコいいと思うのがその理由と語るが、映画の中では、実はこんなふうにも語っている。

「北朝鮮って国際社会から孤立した、孤独な国ですよね。その孤独がいいんですよ、俺は。(略)いろんな人から嫌われて、“古久保君とは遊ばへん”とか言われて、経済制裁をされている自分。ようするに自分の生活空間が、北朝鮮の体制とよく似ていると思っているんです─」と。