母への思い出を綴り、展示会も開催

約10年間、藤沢市にある実家で母・光子さんの在宅介護を続けた
約10年間、藤沢市にある実家で母・光子さんの在宅介護を続けた
【写真】80年代、「ロックの女王」として音楽シーンを彩った頃の白井貴子

「介護の様子をSNSに連日書いてみたら、同じく親の介護を経験した全国の人からの感想や励まし、もっと親を大事にしないといけないと思ったという声などが届き、孤独な戦いだと思っていた自分を勇気づけてくれました」

 母との思い出や介護の日々は、初の著書として'23年に『ありがとうMama』という本になった。

 さらに、'19年6月に京都佛立ミュージアムにて「母 TSUNAGU 未来展」を開催。

「日本中を駆けずり回り、ロックの女王と呼ばれるまでの過酷な状況を支え、ステージ衣装を縫ってくれた母の針箱とミシン。その母を育て、やはり家族全員の着物を縫った大阪の祖母・千代が残した針箱。その引き出しの中に大切にしまわれていた、たくさんの糸巻きに小さく母の名前や、私の名前が書かれていました。

 それを発見したとき、いつも針仕事をしていた祖母や母の姿が思い出され、何も針仕事のできない私が、これを捨ててしまったら、これまでの何千年、何万年という人間の長きにわたる手仕事をすべて捨てることになる。人間は日々進化しているようで、むしろ退化しているのかもしれない。こうした『手仕事の偉大さ』を伝えるために個展開催を思いつき、展示会を開催しました」

'24年に開催した「母TSUNAGU未来展2〜RockQueenの宝物」会場入り口には思い出の品々が
'24年に開催した「母TSUNAGU未来展2〜RockQueenの宝物」会場入り口には思い出の品々が

 同ミュージアム館長であり、京都にある長松寺の住職、長松清潤さんも、白井との出会いは東日本大震災の被災地支援。ロックの女王が被災地で埃まみれで被災した人々を励ます姿に感動した。

「支援活動のみならず、ずっと前から環境保護活動や地方創生活動に取り組み、さらに看護や介護など家族が抱えるたくさんの課題に真剣に取り組んでおられました。持続不可能な世界の中で貴子さんの提案する『希望』に感動するようになりました。貴子さんのメッセージは仏陀の『生きとし生けるものが幸せでありますように』という教えと重なります」(長松館長)

 白井は'24年から毎年1月にKT Zepp YOKOHAMAで大規模ライブを開催している。毎年このライブ会場では、全国で知り合った環境保護や伝統工芸などの個人や団体に出展してもらい、SDG'sキャンペーンを展開している。

 さらに、「日本は海外よりも何でも30年遅れている」と痛切に感じている白井は、ようやく環境問題と向き合うようになった今の日本ならリリースする価値があるとみて、ロンドンレコーディングでお蔵入りさせた曲たちをまとめたアルバム『NOAH』を準備中。アルバムタイトルに込めた思いを語るときの目が印象的だった。

京都佛立ミュージアムの長松清潤館長と、テレビ番組の収録
京都佛立ミュージアムの長松清潤館長と、テレビ番組の収録

 デビュー時のディレクターが沖縄出身で、ひめゆり学徒隊だった母親と沖縄で会ったエピソードを語ったとき。また、「広島ピースコンサート」についてのさらなる言及。

 海外の平和や環境に対する取り組みと日本の意識の差を話すときの顔つきは、キャリアを重ねた自分がこれから何をすべきか、何ができるのか、まだやれていないことは何か─そう自身に問う目だった。

 取材当日はくしくも広島と長崎の原爆投下の日に挟まれた日。終戦80年で多くのメディアや団体が平和について語っていた。45周年に向けて「未来へ咲かそう!フラワーパワー」を合言葉にライブ活動を展開する白井は、2027年に横浜市で開催される国際園芸博覧会(GREEN×EXPO2027)の応援団長にも就任した。

 今後も目が離せない。

《Information》
●2025年11月16日(日)大阪・松下IMPホール
白井貴子&THE CRAZY BOYS
『「NEXT GATE 2025 OSAKA〜’85大阪城西の丸庭園 再現ライブ!〜」

●2026年1月24日(土)横浜・KT Zepp Yokohama
白井貴子&THE CRAZY BOYS
『RASPBERRY KICK 再現ライブ!&SDGsカーニバル』

2016年発売のロングラン・アルバム『涙河』が8月25日から配信中

<取材・文/山本 航>

やまもと・わたる ライター(音楽、映画、企業広告を中心にファッション、グルメ、政治経済、地方行政、福祉、教育、人権、国際問題など多岐にわたる)、音楽・映画プロデューサー、作詞家(日本作詞家協会新人賞・優秀作品賞受賞)、俳優、ハワイアンアーティストなど多方面で活動。