それまでのお笑いのスタイルを破り、'80年代に起こった漫才ブームで一躍スターになったふたり。酸いも甘いも噛み分けてきたコンビが、まだ新しいことに挑戦し続けるその理由とは―。
日本一忙しい73歳
灼熱の太陽が照りつける、8月下旬の日曜日。JR新宿駅に直結するファッションビルは、涼を求める買い物客でにぎわっていた。
最上階の7階フロアを占めるお笑い劇場「ルミネtheよしもと」の客席も、子どもから大人まで幅広い年齢層の客で埋めつくされている。座席数およそ500の劇場は、客席とステージの距離が近く、臨場感たっぷりだ。
「名前だけでも覚えて帰ってくださいねー」
「ほんとに覚えてるか、あとでもっかい聞きますよー!」
開演前、新人コンビが“前説”として登場し、場内の雰囲気を徐々に温めていく。この日の出演者は8組。テレビでもおなじみのアインシュタイン、レイザーラモン、M-1王者の笑い飯など、豪華な顔ぶれだ。一組の持ち時間はおよそ10分。
客席との掛け合いで場内を盛り上げたり、巧みなしゃべくり漫才を披露したりと、それぞれが個性あふれるパフォーマンスで劇場を笑いの渦に包む。
そしてラストの8組目─。“トリ”を務めるザ・ぼんちの出囃子『恋のぼんちシート』が鳴り響くと、観客からひときわ大きな歓声が上がった。
芸歴54年。ボケのぼんちおさむと、ツッコミの里見まさとは共に1952年生まれで、今年73歳を迎える。6000人以上の芸人が所属する吉本興業で、トップに君臨するレジェンドの中の一組だ。
“トリ”の持ち時間は、ほかの出演者たちより5分長い15分。おなじみの「お、お、おさむちゃんでーす!」の挨拶から、観客は笑いっぱなし。
「気をつけー! 小さく前ならえ!」
「メッシ、メッシ、おかずも食べなさーい!」
「かわいいだけじゃ、ダメかしら♪」
突拍子なく次々と飛び出すおさむのボケに、爆笑のあまり天を仰ぐ客。
「……きみ、大丈夫か」
と冷静にいさめるまさとのツッコミが、また新たな笑いを生む。師匠クラスの大ベテランなのに、なんだかかわいくて、カッコよくて、その上おしゃれで、なんといっても華がある。トリにふさわしい爆笑をさらい、ステージを後にした。
「まだまだ今日は始まったばっかり。あと2ステ(ージ)ありますから」と、楽屋でコーヒーを片手に、しばしの休息をとるふたり。
この日の『ルミネ』は入れ替え制で3回公演。ザ・ぼんちはそのすべてでトリを務めた。
「昨日は大宮、おとといは幕張と、3日連続で劇場出演です。今日終わったらやっと、大阪に帰れます」(まさと)
「昨日、金属バットの友保さんに“おじいちゃんやのに無理せんとき”って言われましたよ(笑)」(おさむ)
日本一忙しい73歳、といっても過言ではないだろう。'80年代の漫才ブームを牽引し、一世を風靡したザ・ぼんちがおよそ40年ぶりにセカンドブレイクを果たし、テレビに舞台にひっぱりだこだ。
















